■62 / inTopicNo.2) |
GFF新作記念投下
|
□投稿者 : こげ -(2010/07/18(Sun) 23:59:08) [ID:Xn2YWboa]
| この作品には、奇異奇抜な設定は決していない。 読み手の予想を大きく覆す展開はない。
だが、突飛な設定に頼らず、 ありふれたテーマで魅力的な物語を綴ることがどれほど難しいことか。 架空のキャラクターの心情、その独白の一文一節だけで読み手を惹きつけることが、どれほどハードなことか。 そして、このdiscordという作品には、それを成す筆の力があったのだ。
情景描写は最小限に留め、主人公の淡々とした独白・彼の認識の推移に焦点を絞っているため、その文体は怜悧かつソリッド。 しかし、角があって読みづらいということはなく、 逆に、その硬質さは、テンポ・音感の良さに繋がっている。 さらに、時折挿入されるヒロインの仕草は、主人公の乾いた独白を鮮やかに彩る。 それらが自己陶酔系の冷たく突き放す文体とは一線を画す味を醸し出し、 絶妙ななすー独自の味にブレンドされているのだ。
また、なすーはキャラクター小説のメソッドを熟知していることが見て取れる。 即ち、”どうすればキャラクターの好感度を高められるか”、 ”失ってプレイヤーに悲壮感をアジあわせることが出来る人物をどう組み上げていくか”を、 理性的に考えてイベントを積み重ねているのだ。 まず、”華麗なリンゴの皮むき”で、主人公の卓越した技巧を描写した直後に、その対比として料理の不得手さを見せる。 そうやって主人公の欠点を浮き彫りにし、継いでそれを埋めていくことで、 屋敷での主人公の立場の形成と主人公の内面の変革を促しているのだ。
それを端に発し、一つ一つ焦らず逢瀬(イベント)を重ねさせ、 一介の暗殺者と富豪の娘を、記号の集合体から、主人公とヒロインという人格を持ったキャラクターへと昇華させている。 この過程はじつに丁寧に描かれていた。 ”暗殺者がヒロインとの触れ合いで、人間性を獲得する”という結果を見据えつつも、 一足飛びにそこに飛ぶことはしない。 暗殺者の心情の揺れ動きを自然に、小さく段階的に、ゆっくりと描いている。 ”作者の都合で動くだけの人形には、決してしない”というなすーの作り手としてのプライドが見て取れる。
こういった熟練されたキャラクターメイキングの手法は、是非皆参考にして欲しい。
ちなみに、特に私が注目したイベントは、”身代わりのぬいぐるみ”だ。 配置の仕方がほんとうにさりげないのに、クライマックスで劇的なガジェットに化けるのだヤツは。 プレイヤーにまず、あまりにもあっさりとヒロインを殺したと思わせ、驚愕させる。 …と思いきや、プレイヤーが嘆息する間もなく、ぬいぐるみとヒロインの入れ替わりを明かし、伏線をさらっと回収してのける。 そこで、プレイヤーの心配は杞憂であることが示されるのだが、それと同時に、 転がり落ちるように止まる気配のなかった主人公の虐殺劇が一旦クールダウンする。 ここがうまい。 何がうまいって、この間に、 プレイヤーに、”ヒロインだけは特別な存在として見逃されるのでは”という期待を抱かせるのだ。 垣間見えるハッピーエンドへの道。 だがそれは、罠だ。 なすーが、プレイヤーを更なる深い絶望に突き落とすために用意した虚ろな幻の道なのだ。 そういった虚実織り交ぜたシナリオ展開は、前作IMRの頃から見せるなすーの妙技だが、 今作でより丁寧かつ狡猾になったことは間違いないだろう。
そして、激動のクライマックスを超えた先で、ようやく主人公を俯瞰する画面(本来のツクール3の画面)に至る。 BGMがかかる。 この世界に色が鮮やかに染み渡っていく。
これは、主人公の自意識が”漸く世界を捉えたこと”のメタファーだと考えられる。 この演出は、主人公が死に伏せたメイドを見て、画面全体に赤いエフェクトがかかった瞬間…… すなわち、メイドの胸から流れるおびただしい血を眼にし、”これまで認識できなかった死を認識したとき”には、既に始まっていたのだろう
。 実に巧妙。そして効果的だ。
そしてラスト。 主人公の暗殺者としてのアイデンティティの崩壊から、チャーハンを交えた再起、 そして”只の旅人”へと成り下がった主人公が初めて発する”個人として確立された一人の男”の声でのヒキ… この一連の流れは、最高に血沸き立つものだ。 希望をひしひしと感じさせるこのプバー本編へのヒキと、 アクが強いAngel Beat!の主題歌が絶妙に合うのも興味深い。 とにかくサイコーだったということで一つ。
以上散文。妙に偉そうな口調ですが、レビューとさせていただきますー。 うん、RPG要素ゼロだけどこれは優勝しても誰も文句言わないと思うんだ。 頑張れ本編制作ちょう頑張れ。
|
|